ハルタ

「ハルタ」は、2008年10月14日に隔月誌『Fellows!』(フェローズ)として刊行を開始し、2013年2月15日より現在の誌名と年10回刊の刊行ペースへと移行した、KADOKAWA(エンターブレインブランド)発行の漫画誌である。1月と7月以外の毎月15日ごろに発売される。誌名の「ハルタ」は、インドネシア語で「宝物」を意味する言葉から名付けられた。新人作家の育成と、漫画家の個性を最大限に引き出す自由な作品表現を重視する編集方針が特徴で、従来の漫画雑誌とは一線を画す独特の装丁や発行形態を持つ。
「新人作家の重点的起用」と「アニメ・小説コミカライズの排除」:
創刊時からの最大のコンセプトは、アニメや小説のコミカライズ作品を一切掲載せず、新人を中心とした誌面作りを行うことだ。これにより、多くの新人作家がデビューし、その才能を開花させてきた。漫画家の個性を尊重し、編集部からの企画提案は基本的に行わず、作家主導で作品が生まれる環境が整備されている。
圧倒的な画力重視と自由な表現:
『Fellows!』時代は隔月刊であったため、作家が原稿に長い時間をかけられる環境があり、その結果、1コマあたりの線数が多い画力重視型の漫画家が多く集まった。現在もその傾向は続き、緻密で美しい絵柄の作品が多い。また、作品表現に方向性や制約を設けないため、ジャンルやテーマが非常に幅広く、実験的で多様な物語が楽しめる。
独自の発行形態と装丁:
流通上は雑誌ではなくコミック扱い(書籍扱い)のため、バックナンバーの購入が容易である。また、「見出し以外の煽り文がない表紙」「自社広告を含む一切の広告要素の排除」「漫画誌としては異例の帯仕様」といった独特の装丁を採用している。これらのデザインは刊行開始時からコードデザインスタジオ(後に8823DESIGN)が手がけ、雑誌全体のアート性を高めている。不定期で販促小冊子や分冊発行を行うなど、実験的な試みも多い。
「担当裁量制」というユニークな編集体制:
各作品の連載開始・終了時期やプロモーションなどを、編集部全体ではなく各々の担当編集者の裁量で決める「担当裁量制」を採用している。これは漫画業界では珍しい構造であり、各編集者が自身の担当作品に深くコミットし、作家と密接に連携することで、個性的で質の高い作品を生み出すことに繋がっている。
兄弟誌・増刊の展開:
ページ数が増大しすぎた対策として、新人中心の兄弟誌『Fellows!(Q)』を刊行したり、単行本レーベルを「ハルタコミックス」として独立させたり、さらに『ハルタオルタ』『青騎士』『テラン』といった増刊企画やWEB漫画誌を展開したりと、常に進化を続けている。
「ハルタ」からは、その独特の編集方針により、多くの人気と評価を得た作品が多数誕生している。
『ダンジョン飯』(九井諒子):
魔物たちを食材としてダンジョンを攻略する、ユニークな視点のファンタジーコメディ。その緻密な世界観構築と斬新な発想で絶大な人気を博し、アニメ化もされた「ハルタ」を代表する作品だ。
『乙嫁語り』(森薫):
19世紀中央アジアを舞台に、嫁入りする女性たちの生活や文化を丁寧に描く歴史ロマンス。森薫の圧倒的な画力と綿密な考証が評価され、数々の賞を受賞した。現在は兄弟誌『青騎士』へ移籍。
『ハクメイとミコチ』(樫木祐人):
身長9cmの小さな人々が暮らす世界での日常を描くファンタジー。その幻想的な世界観と穏やかな物語が人気で、アニメ化もされた。
『坂本ですが?』(佐野菜見):
クールでスタイリッシュすぎる男子高校生・坂本の日常を描くギャグ漫画。その独特のユーモアセンスが話題となり、アニメ化された。
『ヒナまつり』(大武政夫):
ヤクザの男の家に、突然超能力者の少女が転がり込んでくるSFコメディ。シュールなギャグと人情味あふれるドラマの融合が魅力で、アニメ化された。
『北北西に曇と往け』(入江亜季):
アイスランドを舞台に、不思議な能力を持つ探偵の少年が事件に挑むミステリー。入江亜季の繊細な絵柄と独特の雰囲気が評価されている。現在は兄弟誌『青騎士』へ移籍。
『煙と蜜』(長蔵ヒロコ):
大正時代を舞台に、年の離れた少女と青年の交流を描く物語。レトロで美しい絵柄と穏やかな物語が特徴だ。
『ミギとダリ』(佐野菜見):
裕福な老夫婦のもとに現れた美少年ダリと、その裏に隠された秘密を描くサスペンス。アニメ化された。
「ハルタ」は、これらの作品を通じて、既存の漫画雑誌の枠にとらわれない新しい表現と才能を追求し、「宝物」のような作品を読者に提供し続けている。