『行け!稲中卓球部』は古谷実によるマンガで、1993年から1996年まで週刊ヤングジャンプで連載されカルト的な人気を誇っていた。
ギャグ漫画に分類されるが、作者の古谷実は後に森田剛主演で実写映画化もされた『ヒメアノ~ル』など全く違った作風のマンガを発表しているので、『行け!稲中卓球部』を後から知った読者が大きな衝撃を受けるケースも少なくない。
『行け!稲中卓球部』はそのタイトル通り、中学生の卓球部員たちの青春を描いたギャグマンガとなっているが、ハッキリ言ってただのギャグマンガではない。
『行け!稲中卓球部』と過ごした私の青春時代
当時の中学校や高校では生徒たちが『行け!稲中卓球部』の単行本を持ち込み、生徒間で貸し借りをするのが常習化していたが、思春期の学生たちが休み時間だけマンガを読むなんて勉学に対する高い志を持っているはずもなく…。
多くの学生が授業中に先生から見えないように机の下に隠し、または机の上に教科書を立てて見えないように巧妙に隠し、札付きのワルともなれば堂々と机の上に『行け!稲中卓球部』を開いて読みふけっていたものだが、ここで隠れて読んでいる札付きのワルは大きな問題を抱えることになる。
授業中に隠してこっそりと読んでいるにも関わらず、笑いが耐えられないのである。
段々とニヤけてしまう場合は頭やお腹が痛いふりをして表情を歪めることで若干の回避をできるが、「ブッ!」と噴き出してしまったらもうアウトである。
「やばい!バレる!」と思った生徒が焦って机の引き出しにマンガを開いたまま押し込むため、学校に持ち込まれた『行け!稲中卓球部』の単行本はページが変に折れてしまっているケースが非常に多かった。
人様から借りた本に折り目をつけるなんてあまりに無慈悲な行為だが、先生に取り上げられて帰ってこないよりかはマシである。
人気の秘密:「なぜ『行け!稲中卓球部』は思春期の少年に刺さりまくったのか?【深掘り考察】」
ではなぜ『行け!稲中卓球部』はこんなにも多くの人を魅了したのか?
青春時代に思いを馳せながら、私なりに紐解いていきたいと思う。(なんだか映画『スタンド・バイ・ミー』の大人になって小説家になったゴーディーの気分である)
キャラクター描写:「個性的すぎる卓球部員たち!モブキャラまで手抜きなし!?」
『行け!稲中卓球部』のすごさを語る時に避けては通れないのが、登場人物たちの多種多様で突出したキャラクターであろう。
主人公ともいえる前野を筆頭に、相棒役の『あしたのジョー』の矢吹丈に心酔している伊沢(髪型も真似ているため頻繁にイジられる)、そして見た目はマスコットのような可愛さを持ちながらも卑劣でトップクラスのスケベさを秘めている田中、心優しく卓球部の中で救いとも言えるまともさを持っている田辺は周囲を失神させるほどのワキガで、部長で卓球の腕前も確かな竹田は周りがドン引きするほどの巨大なイチモツを持ち、竹田の次に卓球が強い木下はとにかく女性にモテるキャラクターである。
さらにマネージャーの岩下京子や神谷ちよこも、それぞれがしっかりと特徴を持っている。
卓球部の顧問の柴崎は頭髪が薄いため、先生でありながら前野たちから普通に「ゲーハー」と呼ばれている。
マンガには女子卓球部員も登場するし、ギャグマンガにありがちな「タイトルに卓球部ってあるのに全然卓球しない」という回も多く存在するため(むしろ卓球をやっている回の方が少ないと思う)、他にもとにかくたくさんの登場人物が登場する。
『行け!稲中卓球部』のキャラクターのすごさで特筆したいのが、いわゆるモブキャラも含めた多くの登場人物たちが、全員しっかりとおもしろいのである。
つまり手を抜いたキャラクターが全然いないのである。
バラエティに富んだキャラクターたちが『行け!稲中卓球部』の人気の要因になっていたことは紛れもない事実であろう。
作風の特異性:「リアルで『ヤバい』下ネタと時代を先取りするルッキズム」
さらに『行け!稲中卓球部』はたくさんの下ネタが散りばめられていることでも有名だが、下品は下品なのだが90年代に流行っていた下品なギャグマンガたちとはやはり一線を画していた。
具体的に言うと、ものすごくリアルかつ面白い下品さだったのである。細かく書くことができないのが残念だが、思春期の少年たちにとっての『あるある』がふんだんに盛り込まれていたのだ。
異性に興味を持ち始める年頃の登場人物たちなわけだが、読者もまさにそういった年代の子達が多かったことも人気が爆発していたひとつの要因であろう。
さらに伊沢の北条先輩への想いなど、叶わない恋が存在する人生のシビアさも教えてくれることもある。
現在はSNSの影響で行き過ぎたルッキズムに歯止めが効かず大変なことになっているが、『行け!稲中卓球部』は当時から強烈なルッキズムも描かれていて、今考えるとかなり時代を先取りしている。
前野がマンガの中で女性の見た目を『打撃』、性格を『守備』と野球に例えている。
まとめ:「大人になって読み返す『稲中』の稀有な魅力」
かなり真面目に『行け!稲中卓球部』について徒然なるままに筆を走らせてきたが、最終的に言いたいことは「異常に面白い作品、だから人気だった」ということである。
ちなみに大人になってから読み返すとタイムスリップしたように懐かしい気分に浸ることができ、どこかセンチメンタルな気持ちになりつつ、でも爆笑してしまうという稀有な感情になれる数少ないマンガなのである。
久しぶりに全巻読み直したくなってきたので、この辺で筆を置かせていただくこととしよう。
この記事を書いた人

ペンネーム:カッチン
普段は映画やドラマ、俳優に関するレビューを執筆。作品愛溢れる鋭いレビューには定評があり、YouTube・noteでもその洞察力を発信中。漫画の魅力を深く読み解く眼でその視点から、漫画作品の感想・考察記事を寄稿くださっています。